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「おカネの切れ目が恋のはじまり」シナリオブックの話

連続ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」、2020年夏に、全8話放送予定で撮影していたが、三浦春馬さんが亡くなられた事でストップになった。
恐らくこの時点では、3話まで完成してただろう。そして4話の脚本を変更&新たに撮り直しを行い、全4としてテレビ放送された。
その後、本来予定していた全8話の内容について、シナリオブックとして発売された。
今回は、シナリオブックを中心にカネ恋について語る。

ドラマ放送やシナリオブック購読から半年以上経つが、私は今でも見返す程、大好きな作品になっている。
ずっとレビューをしたい思ったが、ようやく形に出来た。
(※レビューというよりはストーリー解説になりましたが…ネタバレ含みます)

玲子と慶太

カネ恋はタイトル通り、"お金"と"恋愛"がテーマのラブコメディ。
玩具メーカー会社「モンキーパス」の経理部で働く九鬼玲子、モンキーパスの御曹司で営業部で働く猿渡慶太が中心となる。
魅力的な人物が盛り沢山だが、やはり私は、玲子と慶太が特に大好きだ。

九鬼玲子は"清貧"、"世捨て人"等と周りから言われている。極度の節約家。1袋6個入りのパンを購入するが、全てをイートインで食べるには多いと、3つをイートインで残り3つを持ち帰り(=軽減税率8%)で計算して欲しい、と言い出すレベル。
無駄な事はせず、必要以上に人と関わろうとしない。だが、実は人想いである。飲み放題でソフトドリンクしか頼んでいないガッキーにこっそりお金を返したり、自分を裏切った早乙女や、自分の邪魔をする慶太の母に対し、本気で心配したり気遣う場面があった。見返りを求めないその優しさが、彼女の最大の魅力だと思っている。
その性格は、彼女が"ほころび"が気になり、色々な人のほころびを繕おうとする展開にも通じている。
ところが、15年片想い中のイケメン会計士、早乙女に対しては大量の差し入れを渡す程度にほころびまくっている。早乙女の事は見ているだけで良いと自分に言い聞かせていたが、フラれた事で、本当はそうでは無かったと自覚する。3話ラスト、玲子が慶太の前で、人生の半分以上好きだったのに!…と泣き叫ぶシーンは、TVドラマ版一番の神回だと思う。松岡茉優さんの演技に心を打たれ、また、劇中で流れるミスチルの曲が、切ない程にマッチしていた。

猿渡慶太は昔から(主に母に)甘やかされて育ったゆえに、浪費癖が酷い。海外出張で数百万(主にカジノと買い物)を使っても平然としている。
一見ふざけているように見えるが、根は純粋であり、憎めない男である。
元カノ・まりあの婚約者に対する気遣いに対し、婚約者は見向きもしなかったが、慶太だけは気づき、まりあを笑顔で讃えた。そして、彼は基本温厚だが、玲子を傷つけた早乙女や自分の母を本気で怒る事もあった。不器用な優しさを持つところは、玲子と似ている。
また、自分が企画したおもちゃを実現するのが夢であり、小さい頃から企画を書き溜めていた。
玲子は、彼の夢に対する想いは本気であると知る。そして実現する為に、まずはお金の事を勉強すべきと、慶太に"おこづかい帳"を託す。

対照的な2人が最初は衝突しつつ、徐々に相手を認め合い、やがて"結婚"という一緒になる選択をする。そんな2人を追っていくと、こちらまでワクワクした。
そして、コメディのテンポがとにかく良い。一見真面目そうな玲子が、同じ喋りのトーンでボケをかますところが可愛いし、あえて慶太がツッコミ担当になる等の予想外さも面白い。

 

各話の概要

浪費癖が酷い慶太は、社長(父)を激怒させた事で、営業部から経理部に移動。そこで玲子と出会い、2人の物語が始まる。更に父によりマンションまで解約させられ、玲子が住んでいる実家(母が経営する民宿)に上がり込む。
前半では、2人の周りの登場人物が起こす、騒動や問題を解決していく展開が目立った(人のほころびを抽出する玲子、まるで探偵ものの主人公にも見えた)
3話では、玲子が長年片想いをしていた早乙女に失恋。ラストで慶太が不意に玲子にキスをした事で、2人の恋が動き出す。

4話はドラマ版最終回。ドラマ版と本来のシナリオでストーリーは異なるが、玲子が生き別れになった父に、伊豆まで会いに行くという、根本的なエピソードは変わらない。大きな違いは、玲子にお供したの慶太だが、ドラマ版ではガッキーに変わっており、慶太は突然姿を消した設定になっている。(ラストで玲子の元に戻ってくるような節が見られた)
本来のシナリオでは、伊豆の出来事がきっかけで、玲子と慶太は、お互いへの恋心を自覚する。ところが、玲子から「猿渡さんと結婚する事にしました」と半ば強制的な、謎すぎるプロポーズを受け、慶太、困惑する。
価値観の違いで2人は衝突をしてしまうが、5話の最後には仲直りし、改めて慶太が玲子にプロポーズ。
同時に、慶太の母は玲子を認めず、その所為で慶太が母を拒絶する等と、結婚を行う上で蔑ろにできない、"家族"のエピソードも展開。
6話最後で家族の問題も解決、ようやく結婚の道に進む。

 

物語の終盤

結婚が決まり、式の準備を行う 2人。また、慶太は昔から憧れだった企画開発部に異動が決まる。全てうまく行くと思われたが、今度は、会社の不正に巻き込まれる事に。
実はモンキーパスはこれまで、不正な会計を行っていた。黒幕は専務の鷹野だが、残念ながら先代の社長(慶太の母方の祖父)や、慶太の父である現社長も加担していた。(真相は不明だが、きっかけは自分達であると、社長が玲子に話す場面がある)
経理部メンバーが中心に極秘調査を行い、不正の疑惑にたどり着く。性格上見過ごせない玲子は、社長に話しに行く。しかし社長は、会社の業績を立て直す事ができれば、こんな事はしなくて済む、今は胸にしまっておいてほしいと告げる。
慶太にも相談できず、どうしようもなくなった玲子は、結婚式を前にして、モンキーパスに退職届を出し、失踪する。

玲子の失踪が原因で、慶太は不正の話を知る事となる。
その頃、玲子は伊豆の父のところにいた。やがて、玲子を見つけ出した慶太は、玲子が居なくなった理由や気持ちを肯定つつも、だけどそういうときは自分を頼って欲しい、結婚ってそういうものでしょう、と説得。玲子も、慶太と会えなくなるのは嫌だと言い、2人は一緒に帰る。
玲子は、会社の件は一旦飲み込むが、自分たちのやり方で会社の業績を良くし、綺麗な会社にすると決心。モンキーパスの経理部に戻り、部内の協力を得ながら、『清ら化計画』を地道に実行していく。慶太は、玲子がそれで良いなら…と彼女の決断を受け入れる。

そして、無事に結婚式を迎える。会場は玲子の家。
最後に慶太から締めの挨拶。経理部に移動になり、玲子に出会い、玲子のお陰で変われたと、感謝の気持ちを口にする。まさに最終回らしい感動のシーン。

ところが、
「そんな玲子さんに、大きなほころびを見ないふりをしろだなんて、言えない」
と慶太が言い、場の空気は変化する。
ちょうどその頃会社では、鷹野の部屋に金融庁の職員が入ってくる。不正に関する捜査が入った。実は、不正の最終的な証拠は、慶太が掴んで来たと判明。慶太は、早乙女やガッキーの力を借り、内部告発の為の準備を水面下で行っていた。
舞台は結婚式に戻る。慶太は震えながら、やっぱりこんなのダメだよ、と社長である父に言う。そして、1話で玲子から託された"おこづかい帳"を取り出す。最初は給料が入っても、すぐに赤字になるぐらい浪費していたが、今月は初の黒字。こんな自分でも変われたから、きっと会社は大丈夫だから…と父に投げかける。
直後、金融庁と警察が入ってきて、父は連行された。
こうなる事は分かっていただろう。しかし父が去ると、慶太はその場で泣き崩れる。

会社や家族、そして玲子を想っての、あまりにも切なすぎる決断。慶太のスピーチから父が捕まるまでの展開、シナリオブック242〜243ページ、あの約見開き1ページは何度読んでも泣いてしまう。
個人的に連続ドラマの醍醐味は、"登場人物の成長"が描かれるところだと思っている。慶太は、玲子の良い部分を吸収し、最後は自らが家族の"ほころび"と向き合った。彼の成長が"おこづかい帳"で表されていることも、カネ恋らしい表現。
何よりこのシーン、三浦春馬さんの演技で見たかったなと思う。彼は、慶太の内面に全力で寄り添い、演じてくれるに違いない。そういった意味でも、代役を立てずに、春馬さんが演じる慶太で、ドラマ版を終わらせてくれて良かった。

その後結婚式は中断、モンキーパスの経営陣は逮捕され、慶太は実家に帰ってしまう。
2人の結婚はどうなったのか、と周りは心配していた。
最後、玲子の家に慶太がやってきて、久々に再会。慶太が指輪を渡し、2人だけの結婚式。
ロマンチックな結末と思いきや…お寺がライトアップ、花火が打ち上がるなど、慶太の仕込んだサプライズが炸裂。玲子は、いくら使ったんですか?!と激怒。「離婚です!」「まだ結婚してないけど?!」とコントを繰り広げながら、完結。
初期の2人を思い出させるような結末にほっこり。

 

さいごに

分かりやすくもしっかり作られたストーリー、個性的なキャラクター達のやりとりや、成長していく姿に、たくさん笑えて泣かせられた。
テレビで1話を見た時点で「これ、すごく好きな作品になりそう」と嬉しくなった反面、こんなに面白いのに、結末まで見れないんだ…と辛くもなった。
だからこそ、シナリオブックという形でも、結末を知る事が出来て本当によかった。最後まで読んで、ますますこの作品が好きになった。
これからも玲子と慶太の物語は、私の心の中で、ずっと続いていく。