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【配信ライブレポート】ACIDMAN - ニューアルバム配信ライブ

はじめに

2021年5月21日、ACIDMANのオンラインライブが配信された。
このライブはニューアルバムに収録予定の新曲を、配信ライブを通じて先行で披露するというコンセプトになっている。
本来であれば既に発売、アルバムツアーを行っていたところだった。しかし、コロナの影響でそれが叶わなかったとの事だ。
しかし、これが「(今の)一番ベストな選択」と、大木さん(Vo.)は話している。
コロナ禍により、配信ライブという選択肢が増えた事で、"新曲を先に聴いて貰う"という、新鮮な楽しみ方を実現した。

彼らが今回会場に選んだのは、THECOO株式会社が運営する配信スタジオ、「BLACKBOX³」。
今年新宿に出来たばかりのスタジオで、全面LEDパネルを搭載。楽曲は勿論、視覚的な部分にもこだわったイベントになっている。

 

楽曲レビュー

ここからはネタバレを含んだ楽曲レビューです。
※現在殆どのプラットフォームにてアーカイブ期間中の為、今から初めて配信を見る方は、この画面をそっと閉じて下さい…

#1. VISITOR

1曲目から鮮やかな配色を使ったスクリーンに、思わず釘付けになる。
曲調は落ち着きがありつつも比較的明るめ。ところが歌詞は、不安や迷いを感じ、世の中の"生き辛さ"に葛藤する、決して煌びやかではない主人公像を思い浮かべる。

今回特に、一悟さん(Dr.)のコーラスの美しさが際立っている気がした。
この曲も然り。Aメロにコーラスが合わさる事で、曲に"色気"が出ている。

 

#2. 歪んだ光

タイトルの登場の仕方がロック。全体的にロック。これぞロックバンド!全開の楽曲。
今回の曲の中で唯一、曲調や歌詞が攻撃的で激しめである。
サビのメロディは、どこか歌謡曲チックな懐かしさもある。
最初から最後まで、自分が思う「好き!」がぎっしり詰まっていて、個人的に現時点での1番の推し曲。

Bメロの、大木さん⇄サトマさん(Ba.) &一悟さんの掛け合いが熱い。
いつかコロナが落ち着き、ライブで声が出せる様になった時、この部分的を客席一丸となって叫ぶ、そんな景色を夢に見ている。

 

#3. Rebirth (※既出曲)

スクリーンにはMVが映し出された。このMV、過去の映像を含んでいたり、3人それぞれのカットが印象的。ライブと合わせて見ると、ついウルっと来てしまう。

"透明な心でいたかった"、"生まれ変わるんだ" …等、今回のアルバムのコンセプト(後に説明)を表現するようなフレーズも多い。
その為、この曲もアルバムの表題曲の1つで良いのでは、と個人的に思っている。

 

#4. 灰色の街 (※既出曲)

思えばこの曲も、"ライブ"で初めて披露されていた。(※2019年「創再現ツアー」にて)
壮大でスケールが大きいながらも、一個人の悲しみにも寄り添う曲である。
だからこそ、聴いていると自然と涙が出てきてしまう瞬間が多々あった。。好きな部分を語れば長くなるので割愛するが、自分にとって本当に大事な1曲になっている。

大木さんの表現が印象的だった。
2番サビはまるで壊れそうな歌い方で、その表情も切なかった。見ていて胸が苦しくなる。
だが対照的に、ラストサビの大木さんは堂々としていた。凛とした表情で、しっかりと歌い上げていた。
きっと彼なりの"暗闇からの光"、そして"希望"の伝え方なのかもしれない。
モノクロで始まり、ラストサビで鮮やかに彩られる。その映像の展開もまた、楽曲のメッセージを明確に表している。

 

インストゥルメンタル曲。ここでは大木さんはオルガンを演奏。
どの楽器も極端に主張はせず、全体的にスッキリと、落ち着いた曲調となっている。
決して派手さは無い。だからこそシンプルに"音"を楽しむ、音楽の根本に触れられる、優しいターンだった。

 

#6. ALE

出だしのみ、前曲「Link」のフレーズを重ねている。この2曲の繋ぎ方が美しい。
「株式会社ALE」が取り組む、"人工流れ星"プロジェクトがきっかけで生まれた曲。大木さんが当プロジェクトに感銘を受けた事で出来た、非公式応援歌らしい。感動した物事を、自分が出来るやり方で支援する、大木さんらしいリスペクトの仕方だ。

曲調も歌詞もやわらかく、どこか可愛らしい。
歌詞にある通り、まさに"ファンタジー"の様な世界観。
スクリーンに映る星空や流れ星は神秘的、かつ豪華。まるで宇宙を旅するような感覚で楽曲を楽しめた。

 

#7. 素晴らしき世界

実を言うと、あまりにもハッピーなタイトルに、最初は戸惑っていた。
しかし曲を聴くとそれとは違う印象を受けた。前提にあるのは、日々の悲しみや苦しみ、"素晴らしいと心から思えない"気持ちなのかもしれない。
それでも主人公は、"愛を知りたい"、"探したい"という願いに向き合っている。
今まで色々な葛藤があり、やがてこのタイトルに辿り着けた…と想像すると、胸が熱くなる。

この曲には「綺麗事」というフレーズが登場する。
綺麗事とは本来、皮肉めいた表現で使われるケースが多い。それでも大木さんは、これまでも綺麗事を肯定してきた。あるいは、綺麗事という言葉の根本にある、本当に"綺麗なもの"に着眼点を置いているのではないか。
大人になるにつれ、真っ直ぐなものに対してネガティブになってしまう人も多い。「正しく生きても損するだけ」「誰も理解してくれない」「夢なんてカッコ悪い」「どうせ生きづらい世の中だから」「そんなの上っ面だろ」…辛い経験とともに感情をどんどんシャットアウトしていく。
だけど、「そんなことは全部わかっている。それでも真っ直ぐな方がいい。信じて行動する方が良い」と、自分の心の奥底に眠っている、ほんの少しの"希望"に語りかけてくれるのが大木さんであり、この曲であり…あるいは今回のアルバムかもしれない。わたしもそんな"綺麗事"を信じていたい。

 

#8. INNOCENCE

当曲を披露する直前、ニューアルバムのタイトルが「INNOCENCE」と発表された。つまり、この曲がアルバムの表題曲のポジションである。
「MEMORIES」を連想させられる明るめの曲調。だが、中盤から後半にかけて、静かにもなり、強くもなり…色々な面を持つ、ドラマティックな楽曲になっている。

innocence="純粋無垢"。
MCで大木さんは「本当は誰しも純粋だったが、時が経てどんどん汚れていく」「それでも純粋無垢に戻り、クリアになっていきたい」「そうすれば世界は少しだけ美しくなるんじゃないかな」と話していた。
そんな想いが詰め込まれた曲になっている。

表現方法がまさにACIDMANらしい。
"色鮮やかな街の片隅"
"どんな色に染まろうとも"
情景や映像を用いて、伝えたいメッセージを言葉にしている。それが美しく、かつ、メッセージが解りやすく伝わってくる。
そこからの"真っ白に生まれ変わるんだ"のフレーズもまた印象的だ。"白"は「灰色の街」でも使われている。ACIDMANが純粋無垢や真っ直ぐを表現する"白"。これが今作のイメージカラーになりそうな予感がする。

 

全体的な感想

まずは演出面。とにかく豪華で引き込まれた。元々の楽曲が持つ美しさや迫力が、映像とのコラボにより、相乗効果で伝わってきた。
ACIDMANライブの映像の素晴らしさは去年の配信ライブ「THE STREAM」で認識していた為、元々期待はしていたが、確実にその斜め上を行っていた。
仮に映像のみを流すイベントがあっても、勝負ができるだろう。自信を持って世間に届けられるレベルと思っている。

楽曲について。1曲1曲も素晴らしいが、個人的には全8曲の流れが印象的だった。
アルバム完成度は8割、残り数曲は制作中との事だが、既に完成度が高い。曲それぞれに個性はありつつも、不思議と一貫性もある。
"人生に葛藤する主人公が、やがて自分なりに今の世界と向き合う"。全曲通じて、そんな1つのストーリーを思い浮べた。
それはあまりにも飛躍しすぎかもしれない。それでも、今回の曲順が何らかの"心の変化"を表している様に感じる。出だし2曲にあった"心の迷い"みたいなものが、後半2曲では殆ど感じられない。まるで、人が様々な経験を得て、"答えを出す"瞬間を目撃した様な、そんな気持ちになった。
アルバムにおける収録順は現時点で不明。わたしは是非、今回披露された8曲についてはこの通りであって欲しいなと思っている。

ACIDMANが"自分達なりのやり方"で自信を持って届ける、新しい曲と映像のコラボ。夢中になって楽むことが出来た。
今後もワクワクを届けてくれる事を楽しみにしつつ、
まずは、今回のアルバム完成・発売を心待ちにしている。